新年に寄せて

「新記念館をめざして」

ホロコースト記念館館長 大塚 信

広島県福山市にあるホロコースト記念館は、世界に点在する350箇所のホロコースト教育センターの一つであるが、今年6月に開館10周年を迎える。

ホロコーストとは「焼いたいけにえ」を表わすギリシャ語で、ナチスドイツによる600万人のユダヤ人大虐殺(1933~1945)をあらわす言葉として定着しているが、他にも多くの民族が犠牲となった。

筆者がホロコーストとはじめて出会ったのは、アンネの父との偶然の出会いからだった。以来34年の歳月が流れたが、今日まで生還者と出会う機会にも恵まれた。彼らは自らの証言を生々しく語り、最後に「何事にもあきらめず、希望を持って生きて欲しい」と結ぶ。その口から、不思議なほど、非難や憎しみの言葉を聞く事がない。

ホロコーストの教育は悲惨な事実と共に、杉原千畝のような正義の人々を紹介する必要を感じる。記念館の展示はこどもに照準を定め、「なぜホロコーストが起こったのか」と自分で回答を見つけるように工夫している。

今日まで訪れた7万人の人々に、どうしてこの地にホロコースト記念館が出来たのか、語り続けてきた。

記念館は10周年を契機に新記念館の建設に向かって具体的に進む。150人が学べる空間に、犠牲となった150万のユダヤ人の子どもたちが当時見触れ感じた、生きる意味を可能な限り再現できればと、展示案を考案中である。

アンネの部屋の再現、ゲットーの壁と高さに触れ、生と死を分けた120センチの棒など。当時の子どもが願った、平和を願う詩やことばをも紹介していきたい。

現在、ホロコーストの加害国となったドイツでは、歴史や平和、寛容さを育てる教育として、収容所などを訪れるフィールドワークが活発に行われ、ドイツ国内だけでなくポーランドのアウシュビッツなどを若者たちが訪れる機会も多い。

広い視野に立って、「今の自分自身の生き方を問いかける」ホロコーストの学びを、教育の中に取り入れていただきたいと願っている。

2005年1月